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【アクティブ読書術】「わたし」が子どもの心に還る時間/2017年7月

小説の世界に浸る喜び

そろそろ梅雨も明けて本格的な夏が到来しそうですね。

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我が家も小学生の息子の夏休みが目前です。

 

バタバタと慌ただしくなる前に、小説を読みたい気持ちになりました。

晴れてうんと暑い日は、急な用事や外出がなければ、お部屋で涼みながらの読書はいかがでしょうか。

 

今回は川上未映子さんの『あこがれ』をご紹介したいと思います。 

「わたし」の子ども時代の心に戻ってみるということ

「子どもの心に寄り添いたい、どんなことを考え、どんなことに悩んでいるんだろうか。」

親なら子育て中にいろいろ考えてしまうこともありますよね。

 

育児に関連する本もたくさんありますが、読みすぎても疲れてしまうことがあります。本の通りにしたくても思うようにできないと、親としてへこんでしまったり。

 

私の息子には発達障害があります。

彼はお話をすることができません。

 

言葉のコミュニケーションが難しいと、いくら私やまわりの人が息子の心に寄り添いたいと願っても限界を感じることが多くなっていきます。

 

1学期間はいろいろと悩みました。

それでも答えが出ないことの連続でした。

 

そして、育児にはきっぱりとした正解が出ないこともあり、それを受け入れなければならないときもあるのだとも思うようになりました。

完璧でなくてもいい。

周囲の助けを借りながら、彼にとって良い環境を作る工夫をしよう。

親としてできることも、少しずつ。一歩一歩で。

そう思えたら少し気持ちがラクになりました。

 

クローバー.jpg

 

それでも私の子育ての悩みは尽きないです。

そんなときにふと思うのです。

 

自分が息子と同じくらいの年頃には、何を思い、毎日を過ごしていたのかと。

 

育児書はときには読むのが辛いこともあります。

 

一方で、小説にはこうした私の心を受け止めて癒してくれる力を持っていると感じます。

 

答えが欲しいのではなくて。

これからの糧になる言葉が欲しいだけだったり。

自分の奥底にある言い表すことができない複雑な気持ちにそっと触れてくれるような優しさを求めたり。

ただ単純に、小説の世界観に心地よく浸りたい・・・。

 

正論はいらない。

けれど、包み込まれたい気持ちでいるときには小説がおすすめです。

 

『あこがれ』を読み進んでいくうちに、少女時代の私自身の日々のことが、じわっと思い出されてきました。それは切ないような、何とも不思議な感覚でした。

 

息子の今の気持ちに近づけるかと言ったら全然そんなことはないのかもしれません。

 

ただ、子ども時代の「わたし」が、現在はママである私の中にフッと登場して、彼の友だちになってくれる瞬間があったらいいな。

彼の気持ちに「わかるよ」って寄り添いたいと思いました。 

子どもの尊厳を傷つけない親でありたい

『あこがれ』の主な登場人物は母子家庭の麦くんと、父子家庭のヘガティーという女の子です。

小学校6年生の子どもたちです。

ヘガティーというのはあだ名ですが、それ以外にもチグリス、リッスン、ドゥワップという独特なネーミングの子たちが出てきます。

 

麦くんの自由な発想でついたあだ名はいかにも子どもらしくて、ユーモアがいっぱいです。

 

子どもの視点で、家族や学校を中心にまわる現実の避けられない運命のような出来事について考えました。

家族のあり方もいろいろな関係性があります。

子どもはみんな同じように見えても、全然違う事情や考え方、生き方があります。

 

子どもの立場は弱いので、生き伸びるために声を上げることすら諦めたりすることがあります。

 

不満や不安を抱えながらも、学校や家庭の関係性を壊さないように、ひたすらに息を潜めているということがあるのではないでしょうか。

 

『あこがれ』にはそういう、子どもたちの表に出てこないような心の声が行間から滲み出てきます。

 

“難しいこととかさ、いやなこととかさ、それはもういろんなことがわあってふえてくるんだろうけど、やってくるんだろうけどさ、でもこっちだって、そうじゃないところに自分でさっといけるようになるんだよきっと。自分で決めて、自分のちからで。”(本文引用)

 

自分の力をつけて、いつか理不尽な環境から抜け出そうとする逞しさは、誰もが子ども時代に通る道なのかもしれません。

 

この小説がすごいのは、子どもがどういう場面で傷つくのかを気づかせる描写にあります。

子どもの視点からネットの問題点を浮き上がらせる場面では、私も複雑な思いで受け止めました。

 

スマホばっかり見ている親、SNSというつながり、検索すれば子どもでも簡単に手に入れられる情報 

そういうことの積み重ねが、知らないうちに子どもの心を傷つけていく危うさもあります。

 

そして。

ヘガティーたちのグループは、6年間の思い出ブックの課題が作れないでいました。

 

世界中の大きな事件や出来事でどこか他人事にしか思えないことと、毎日の小学生の生活。

どちらも同じ年代で同時進行的に起こっているのにどこにもリンクせずに現実的ではないような感じがして、思い出ブックがまとまらずにいました。 

 

それが、麦くんやヘガティーのそれぞれの家族が抱える複雑な環境や学校の個性の彩りが豊かな子どもたちとの関係性において、お互いの悩みと向き合いながら少しずつ共感力が養われていきます。

 

最後の方で、心を寄り添わせるヘガティーの心の言葉となって表れるのがすごくいいなぁ、と思いました。

 

“この瞬間に、いろんな場所に、数えきれないくらいの人がいる。生まれてくる人、死んでゆく人、あした自分が死ぬなんてわかっていないけれど死んでしまう人、うれしい人、悲しい人、そして、食べるものがなくてうずくまったり、泣いたり、叫んだり、逃げるちからもなくてもうだめだと思ったり、苦しんだり、怒ったり、それからやっぱりときどきは笑ったりして、その出来事のまわりで、今日も誰かが、生きているんだと思った。わたしはそのぜんぶを知ることはできないけれど、誰にもそんなことはできないけれど、でも自分の知らないどこか遠くのうんと遠くで、おなじように誰かがおなじように何かを思ってそこにいるのだ。いつもどこかで。そう思うと、自分がたったいまこの場所にいて何かを考えているということが、とても不思議なことのように思えた。どんなに世界が広くても、どんなにたくさんの人がいても、今、わたしがいるここは、ここにしかなくて、そしてそれがありとあらゆるところで、同時に起きているのだ。全ての人に。すべての物に。それはとても不思議なことのように思えた。”(本文引用)

 

子どもは大人が思っているよりも何倍もいろんなことを考えて、折り合いをつけて、乗り越えて、生きる力を育んでいくんだということ。

 

小説と言えども、心に強いメッセージとなって届きました。

そして、私の少女時代の心と向き合うことで、自分の原点となる大切な部分に気付かされました。

 

私もそうして大人になったことを忘れないでいたいと思います。

 

読む年齢や立場によって、同じ小説でもまるで違うメッセージを発することがあるかもしれません。

それこそが、小説の醍醐味だと思います。

 

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言葉の輝きをぜひ味わってみてください。

読書の時間があなたの優しいひとときとなりますように。

Information/お知らせ

【今回のキラリ本】

川上未映子著

『あこがれ』 新潮社


 

●「+Sleep(プラススリープ)」

「ママのための睡眠講座」「女性のための睡眠講座」「中学生のための睡眠講座」「シニアのための睡眠講座」、その他一般向けに、幅広い世代へ向けた睡眠講座や講演、研修を育児サークル、教育機関、行政機関等で開催しています。

 

☆活動予定表☆

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Mama's profile/プロフィール

鶴田 名緒子

鶴田 名緒子 【+Sleep(プラススリープ)代表 睡眠健康指導士・睡眠改善シニアインストラクター】

記事テーマ

生き方がキラリと輝く!アクティブ読書術

読書の楽しみはページを開いていくだけでワクワクするような世界に飛び込めるところにあります。育児の合間に手に取りたくなる、読書が苦手な人にも興味を持ってもらえるような本の読み方や、いつどこで読書をするのかというシチュエーション、おすすめの本の感想など、様々な視点から読書体験をご紹介します。1冊の本から人生を味わい深く輝かせていきましょう。

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