Happy-Note マタニティ&ベビー
編集長中西恵子
クリニックばんびぃに(小児科)
院長時田章史先生
中西コロナ禍以降、コミュニケーションの場が減り、ママ同士でお子さまの予防接種を話題にする機会が減っているようです。なかには偏った情報しか知らないママ・パパもおられ、編集部でも心配しています。今日は妊婦さんにこそ知ってほしい赤ちゃんの感染症とその予防法について、お話を聞かせてください。
時田赤ちゃんがかかりやすい感染症はたくさんありますが、幸い、日本では多くが「ワクチンで防げる病気(VPD)」です。生後2ヵ月から始まる予防接種をきちんと受けてほしいと思います。私はよくこんな例え話をします。泳ぎ方を教えず子どもを海に放り出したら溺れてしまいますよね。ワクチンはプールで泳ぎ方を教えるようなもの。最初は鼻に水が入ったりして苦しいけれど、練習しておけば溺れる可能性は低くなる。ワクチンも100%安全ではありませんが、何もせずに感染した場合よりはるかにリスクを抑えられます。日本小児科学会やVPD啓発団体などが発信する正確な情報をご覧になって、お子さまの健康を守っていただきたいと思います。
時田麻しん(はしか)や日本脳炎など命にかかわる重大な感染症は、公費負担の定期接種によって流行が抑えられています。それ以外で赤ちゃんに要注意なのがRSウイルス感染症です。2歳までにほぼ全員がかかる感染症ですが、定期接種の対象ではないため、マタニティ教室の情報提供から抜け落ちてしまうことも多いようです。
中西どんな症状が出ますか?
時田初期は風邪と似ていますが、症状が進むとゼーゼーヒューヒューとぜんそくのような呼吸音が起きます。特に生後まもない赤ちゃんは、気管支の働きを支える平滑筋が発達していないため重症化しやすいのです。重症化すると、個人差がありますが、呼吸困難や無呼吸発作を起こしたり、細気管支炎や肺炎へ進行したりすることもあります。かつてRSウイルス感染症は乳幼児突然死症候群の原因のひとつでした。やがてウイルスが特定されて治療方針は立てやすくなりましたが、特効薬はありません。乳幼児の入院率はインフルエンザよりはるかに高いのです(グラフ参照)。
呼吸器の感染症で1歳までに半数以上、2歳までにほぼすべての乳幼児が感染。
重症化リスクが高いのは、生後初めての感染、早産・基礎疾患のある乳幼児。
症状は鼻水、咳、発熱、呼吸がゼーゼーする、呼吸困難など。進行すると細気管支炎や肺炎を起こし入院することも。
咳・くしゃみなどの飛沫、手や物を介した接触で感染します。
流行期、ママ・パパや上のお子さまは手洗い、マスク着用を心がけて。
流行期は年や地域によって変わるのでお住まいの地域の情報を確認しましょう。
Arashiro T, et al. Influenza Other Respir Viruses. 2024; 18(11)e70045. より作成。
本研究は、アストラゼネカ株式会社及びサノフィ株式会社による支援を受けた。
著者にはサノフィの社員が含まれる。
中西感染力も強いようですが、予防法はありますか?
時田接触や飛沫で何度でも感染します。一度かかれば年々症状は軽くなりますが、初めての感染は重症化しやすいです。特に生後1〜2ヵ月から1歳までの感染に注意してください。これまでは早産や基礎疾患のある赤ちゃんが対象の抗体薬が1種類だけでしたが、2024年から健常児も対象となる新たな抗体薬(現時点の保険適用は、早産や基礎疾患のある赤ちゃんのみ)と、妊婦を対象にした母子免疫ワクチンができました。
抗体薬やワクチンによる予防の選択肢が増えました
クリニックばんびぃに(小児科)
院長
時田章史先生
医学博士(順天堂大学大学院 医学研究科)。日々の診療のかたわら、NPO法人「VPDを知って、こどもを守ろうの会」理事として予防接種の啓発活動を推進中。
中西抗体薬は、ワクチンとどう違うのでしょうか?
時田RSワクチンはウイルスの感染性をなくして不活化したものを体内に入れて抗体をつくりますが、抗体薬は抗体そのものを体内に届けます。現時点で保険が適用されるのは、早産や基礎疾患のある赤ちゃんです。妊娠中は母子免疫ワクチンを、誕生後は赤ちゃんに抗体薬を注射することで予防できます。心配な場合はかかりつけ医に相談してください。基礎疾患がなくても重症化の可能性はあるので、小児科医としては日本でもすべての赤ちゃんにRSウイルス感染症予防の公的補助が広がることを期待しています。
中西赤ちゃんを感染症から守るために私たち編集部は、正確な情報を知ることの大切さ、そしてそれを読者にわかりやすく伝えていく役割があることを、先生への取材を通して再認識しました。本日はありがとうございました。
すべての赤ちゃんに感染症の予防が広がってほしいですね
Happy-Note マタニティ&ベビー
編集長
中西恵子
ミキハウス子育て総研が発行する、「Happy-Note」「Happy-Noteマタニティ&ベビー」の編集長。子育てのモットーは「子どもと一緒に習い事やスポーツを楽しむこと」そして「心からほめる」こと。
抗体薬は、2025年現在、保険適用の対象は早産や基礎疾患のある赤ちゃんに限られていますが、海外の多くの国ではすでに健常児の赤ちゃんに予防接種として使われています。また、妊婦さんに注射する母子免疫ワクチンも可能になりました。日本小児科学会では、抗体薬と母子免疫ワクチンを広く提供するための要望書を厚生労働省に提出しています。
誕生後
ウイルスとたたかう武器となる抗体を、赤ちゃんの体に直接注射します。
赤ちゃんに抗体薬を投与
病気を防ぐ
妊娠中
不活化ワクチンによって妊婦さんの体内で抗体がつくられ、お腹の赤ちゃんに移行します。
妊婦さんに
ワクチンを接種
母体で作られた
抗体が胎児に移行
誕生後、赤ちゃんの
病気を防ぐ
イメージ図
時田先生監修
MAT-JP-2506914-1.0-10/2025 2025年10月作成
RSウイルスによる赤ちゃんの病気について、ご両親、赤ちゃんと一緒にお住まいの方、赤ちゃんのお世話をする方、これから赤ちゃんを迎える方に向けて必要な知識や情報を提供しています。