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すべては赤ちゃんのために~マタニティビクス~

妊娠・マタニティ ママの病気・健康 教えて!ドクター

(2007年 冬号 掲載)

人間は初期ほど大切

私の昔からの持論「人間は初期ほど大切。特に3歳までの生活が以後の人生に大きな影響を及ぼす。とりわけ生後3ヵ月の間を赤ちゃんと両親がいかに向き合うかが重要である。」という事が、多くの赤ちゃん学者によって検証されるようになりました。

赤ちゃんは全く無力に見えますが、実は驚異的な学習能力を持っていることがわかってきました。

生後10ヵ月頃の赤ちゃんの脳神経細胞(シナプス)は大人の1.5倍もあり、自分の将来に役に立つシナプスは強化され、これから生きていく上に必要ないシナプスが消滅して、徐々に大人のシナプスの数まで減少します。
赤ちゃんは生きていく上に必要な認知力や適応能力を遊びを通して身につけていきます。

そこで親達は賢い子どもに育てようとDVDなどの教材で学ばせようとします。しかし映像による一方向性の学習には効果に限界があり、映像の中に出てきた事柄を、実際に生身の人間が子どもと一緒に繰り返すことで効果があがることが証明されています。赤ちゃんにとっては、玩具や絵本を与えておくだけでなく、それを通して人とかかわりあうことの方が能力を伸ばせることが分かります。

最も大切なのは胎児期

このように確かに初期ほど大切なのですが、私の言う初期は実は新生児誕生の瞬間に始まるのではなく、子宮の中に新しい生命が芽生えた時に始まるのです。つまり赤ちゃんがまだ胎内にいる時に母親がどのような妊娠生活を送るかが最も大切なのです。

30年程前まで、流産や早産は運動や乗り物の振動によるものと考えられていました。従って妊娠すると安静を基本とする生活指導が行われました。その結果肥満妊婦が激増し妊娠中毒症(妊娠性高血圧症)や難産が多発しました。これを防ぐには妊婦にも適度な運動負荷が必要という信念を持ち、1981年マタニティビクスを考案しました。

マタニティビクス

そもそも身体運動は基本的にスポーツと運動療法に分けられます。妊婦の運動は競技性のあるスポーツではなく、健康増進と安産のための運動療法でなければなりません。私は、妊婦のために考案した運動療法をマタニティビクスと名付け普及に力を入れました。

初めは妊婦はもちろん、医療者側からも受け入れてもらえませんでしたが、1983年頃急速に進歩した超音波診断装置によって、妊娠初期の流産は運動や振動とは無関係に発症することが証明されました。
以後、参加する妊婦が徐々にふえ、データの集積が進むにつれて安産傾向や、善玉コレステロール(HDL)の比率が増加したり、軽症であれば妊娠性高血圧症や妊娠糖尿病の発症を抑制できることなどが、運動群と非運動群の比較データから明らかになりました。

マタニティビクスは妊娠13週から始め、分娩直前に終了します。8年程前、早産は感染によって引き起こされることがわかり、運動習慣は早産に対し予防的に働く(免疫力を高め、お腹の張りを押さえる物質PTHrPが増加する)という私の信念は検証された事実になりました。

マタニティビクスを実施した妊婦から生まれた赤ちゃんは音楽が好きで音感やリズム感が良いとか、丈夫であることをしばしば聞かされているうちに、運動実施が赤ちゃんの運動神経や知能や体力に良い影響を及ぼすと考えるようになりました。この事は現時点では推察の域を出ませんが、流早産に対する私の信念が後に検証された事実になったように、いずれは検証される日が来ると信じています。

いろいろな妊婦のための運動療法

産後の体型・体力の回復を早めたり、母乳の分泌を促進するための運動療法をアフタービクスと言います。産後6週間から約6ヵ月間行われます。

マタニティビクス・アフタービクス・マタニティヨガ・ママヨガ・マタニティアクア・ベビービクス等、すべて日本マタニティビクス協会の認定インストラクターによってリードされ、安全性と有効性が確保されています。現在550箇所の登録施設で2500名の認定インストラクターがマタニティビクスをはじめ産前産後の運動療法を行っています。

田中康弘先生

日本マタニティビクス協会会長、田中ウィメンズクリニック(東京 自由が丘)院長。慶応義塾大学医学部卒。医学博士、産婦人科専門医、麻酔科認定医。周産期の運動療法(マタニティビクス)の研究、女性の全ライフサイクルの各年代に応じた運動療法の研究。
日本マタニティビクス協会 http://www.mb-kyokai.com/

田中康弘

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